ムーという名の犬。

お題「子供の頃の不思議な体験」

昔、実家の隣に大きな犬を飼っていた家があった。

犬種は忘れたが多分ゴールデンレトリバーだったと思う。如何せん、30年ぐらい前の事なのでうろ覚えだ。

 

その犬は、人懐こくて私が幼稚園から帰って来ると尻尾が取れるんじゃないか?って、ぐらい振り回し駆け寄って来て私の顔を舐め回した。

それが、嬉しくいつも家に帰る時は幼稚園の友達よりもムーに会える喜びの方が大きかった。

 

だが、いつだったが…隣人が仕事の関係で引っ越しをする事になった。

と、言っても車で10分ぐらいの所で今思えば対した距離では無いのだがその頃はそれが途方も無く遠い距離に思えた。

 

引っ越し当日。

私は、泣きながらムーに抱きつき「離れたくない!ムーが行くなら僕も一緒に行く!」と、泣きながらに訴え親とその隣人の方を困らせました。

それでも、引っ越しが無くなる訳でもなく私は、泣きながら。ムーも、多分私の気持ちを察しもう会えないと思ったのかそれまで弱く吠えていたのが車に乗った途端に、遠吠えの様な大きな声で吠えながら聞こえなくなるまで吠えてました。

 

それから、1ヶ月ぐらいたったでしょうか?私も、気持ちが落ち着き普段通りの生活に戻ってました。

ある日、幼稚園のお昼寝の時間になって夢を見ました。どことなくムーの気配がする様な。なんだか近くまで来てる様な不思議な夢でした。

 

その後、幼稚園での一日を過ごし家に帰ると…なんと、ムーが居るのです。

たかだか1ヶ月ぐらいしか経ってない。それなのに、私とムーの喜びようと言ったら…

ひとしきり遊んだ後、親が飼い主の方に連絡を取って迎えに来られました。

 

なんでも、その日朝起きたら居なくなってたと。

近所をくまなく探したが居なく、その時一瞬私の家の事が思い浮かんだがまさか…車で10分なら犬の足だと一体何時間掛かるか?流石にその可能性は無いと思い、連絡をしなかったと。

 

犬の帰巣本能がどれだけの精度かはわかりません。もしかしたら、万分の1ぐらいの奇跡で私の家にたどり着いたのかも知れない。

 

犬の寿命から考えてもう生きてる事はないでしょう。

でも、日々私の中の膨大な思い出が今の膨大な現実に殺されていくなか、この思い出だけはいつまでも生き残って居て欲しいと願うばかりです。